以前に低加水麺には本当の意味でのコシは無いと書きましたが、
では多加水麺なら全てコシがあるのか?
というと必ずしもそうとは言えません。

というのも先だって不思議なうどんを食べた事が原因で
あることを実験し、
普段から思っていたことが実証できたからです。

そのうどんとはセルフ方式で最近急激に勢力拡大してきた大きなお店です。

一言で言えば”食べた気のしない麺”
見た目は太くて、食べても歯応えはあるのに
食った感が全く無い。
かなりな量を食べたにもかかわらず店を出た瞬間
何を腹に収めたのか解らなくなるような感覚。
とこう書くと意味不明ですね。

つまり、うどんのようなモノとでも言いましょうか。

なぜこんな麺になるのか?

粉の種類にもよりますがおおむね原因は製造法にあります。

麺の製造には低加水と多加水の方法があります。
それは水量の多さによって分類されるのですが
はっきり言って分類なんか意味を持たないとも言えます。

要は自分の求める姿、性格、性質、味さえ実現できればいいのです。

うどんは元々手打ちで行なわれてきましたから多加水でした。
低加水というのは機械の強力なローラーで圧着しないと麺体になりません。
つまり、低加水の手打ちというのは不可能に近いのです。

多加水というのはほぼ50%近く水を加えます。
水回し(ミキシング)
寝かし
こね
寝かし
伸ばし
切り

という工程を経てうどんになります。

この寝かしがとても重要です。
小麦粉には親水性といって水に馴染む性質があるとはいえ、
微粒子レベルではやはり一定の時間を必要としているのです。
それが独特のコシを生むのです。

こねてグルテンとたんぱく質の網目構造を作りだし、
また寝かして馴染ませます。
これで正しい手打ち独特のコシと喉越しが生まれるのです。

ところがこの面倒で時間の掛かる「寝かし」を
省いてしまったらどうなるでしょうか?

水回し(ミキシング)
こね、伸ばし
切り

まず、製造にかかる時間は大幅に短縮されます。
私の作る中華麺は三日がかりですが、これでやると
ほんの数時間で出来てしまいます。

時間=お金  という考え方で捉えるならばこれも
コスト高、コスト削減となるのでしょうね。

そのかわり代償はとても大きくなります。
コシの無いふにゃふにゃの麺が出来上がります。
もちろんそれでは客は納得しませんから
茹で時間を短くするのです。

そうすると硬い茹で上がりになり、
『あぁ、本物の讃岐うどんとは硬いものなんだな』
と勘違いさせられるのです。

白玉うどん
(製麺所で茹でられて配達された茹で伸びしたうどんの事)

しか、食べたことの無い人は勘違いさせられたままでしょうが
硬いうどんというのは美味しいものじゃありません。

本場讃岐でも硬いうどんを出すとたちまち客足は遠のくそうです。
麺場に立つ人が調理場の司令塔となって先読みをしつつ
待たせないで、茹でたてをタイミングよく出す。
そんな店が繁盛しています。

ですから寿司でいえば花板のような重要なポジションで
言うまでも無く一番の高給取りなのです。


コシが正しく形成されたうどんというのは茹で伸びも遅いのですが
そうでないのは伸びも速いので茹で置きすると二重の意味で
味の劣化が進みます。


コシというのは案外解らない人が多いので
冷凍うどんではカタクリデンプンを入れてそれらしく
あつらえてあります。

これは食べ飽きます。
一回だけなら
『おや?冷凍でも旨いもんだな』と思いますが
三日続けるとその不味さに気づきます。
気づくともう食べたくなくなります。
冷凍うどんが五食パックになっているのもそこのあたりの
非常にデリケートな計算に基づくんでしょうか?

しかし、ちゃんとしたうどんなら冷凍にも耐えられます。
食べ飽きも起きません。
現に富山県の超繁忙店では冷凍うどんでこなしていますが、
誰もそれを指摘しない位、美味しいのです。


実験では伸縮率、茹で伸び、弾力全ての面において
話にならない結果が出ました。

この「寝かし」という適度な熟成
そして適切な「鍛え」の二点。
とても重要かつ、欠くべからざる作業なのです。

刃剣だって生鉄をいきなり成型していくら焼入れをしたって
粘りのあるものにはなり得ません。


コシ
解ってしまえばこんなにシンプルで美味しいものが
ほんの少しの手間を惜しむだけで台無しになってしまうのです。

水さえ多く入れれば美味しい多加水麺になるというものではないとお解かりいただけましたでしょうか?

とはいえ、
かつて、高度成長の時代、労働人口が多かった頃には
質より速さが優先されて白玉うどんが全盛でした。
今は
質よりもひたすら安価が求められているとするならば
これもまた正解なのでしょう。

天邪鬼な私はいまだに麺の醍醐味はコシにあると信じていますからあえて古臭い手法で打ち続けます。
当店では麺を子供をあやすように毎日寝かしつけて、育てています。

ua 016
左が出来たばかりの中華麺、右が熟成麺
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コシは目でも伝わります。
水と粉をきっちり馴染ませると口の中で弾むような
美味しい麺になるのです。



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