本来、味覚は美食の為だけに在ったのではないはずです。
腐ったもの、毒のあるものなどを感知する自衛の為の最終チェックの役目を担っていたはずです。
臭覚も同じです。
口に入れる前に匂いを嗅いで安全か新鮮かを確かめなければいけません。

だから!というのも今更ですが
両者には密接なつながりがあります。
どんなに美味しいものを食べる時でも
例えば茶碗を持つ指先に灯油の臭いなどがほんの少し付いているだけで
もう美味しく感じることができません。

だから良くない匂いを排除しなければいけないのです。
といって食品全てを網羅するほどのヒマもないので
ラーメンに限定して書いてみます。

では、ラーメンにはどんな良くない匂いの可能性があるでしょうか?

ネギの古くなった臭い。
(硫酸系の悪くなった臭いは強烈です)
メンマの古くなった醗酵臭。
(特に塩メンマの経時品は頭痛がするほど)
チャーシューの肉臭いもの。
(輸入豚の飼料由来の生煮えのような異臭。原因は抗生物質)
脂の酸化臭、スープの劣化臭
(店外からも臭います)
麺のかん水過多によるアンモニア臭
(かん水性悪説ではありません、入れすぎなだけです)
麺の保存状態の不適によるやや醗酵したような臭い
(経時または高温のため)
茹で方の不適による麦粉臭さ
(湯の不適)

これらには全て原因と対策、改良案がありますが今回は特に小麦粉の風味と勘違いをされる事の多い「かん水」に限って書いてみましょう。
よく聞く割には誤解の多いかん水です。

主成分はアルカリ性の物質で天然由来のものと化学合成のものがあります。
かん水には色々な種類があり、その全てを試したわけじゃありませんが
現在当店で使用しているものは液体タイプのものです。

かつて入手困難だった時代に灰汁の上澄み液や苛性ソーダなどを代用した事があったそうで
それがかん水のイメージを甚だしく貶めてしまったと言われています。
現在では例えば、中国料理では野菜を色よく茹で上げる時などに普通に茹で水に加えたりする位安全なものとされています。

これが無色透明で無臭なのです。
ここから誤解その一が始まっているようです。
先日、作り比べをしましたのでその画像を張りながら話を進めます。

  sb 001 sb 005


中力の二等粉を同量で二杯用意し、一方には塩と水だけ。
そして他方には同量の塩と低かん水を加えます。
灰分の多い粉です。

つまりかん水以外の条件を全く同じにして製麺する  という事です。
ただし、これはあくまでかん水の小麦粉に対する働きを実証するためであり、
必ずしも最善の麺を作るための作業ではありません。
その点を誤解なさらないようにご理解ください。

かん水には小麦粉に出会うと収斂作用があります。
つまり、「まとまり、縮みやすくなる」のです。
もうひとつやや黄色く発色します。

そして独特の香りを発します。

このかん水の原液は濃度が高いので水で薄めて使用します。
ウイスキーの水割りのようなものです。
この濃度を光学式の機器で計測をして一定を維持します。
この時の値を「ボーメ度」と言います。
値が高いほど濃度が濃く、かん水臭い麺になります。
低ければさほど気になりません。

今回は極低かん水で作りました。
それでも違いは明瞭に表れます。
水回し(加水)段階でもうかん水臭が出ます。
打ち込み、畳みまで全て同じ回数で打ちました。
   sb 007 sb 010


色   左は白っぽいのに比べ右はやや黄色味を帯びています。
堅さ  左はふっくらと柔らかい、右は堅い
匂い  左 穀物臭  右 かん水臭

そして茹でます。
茹で上がり時間にまではっきりと差異が出ます。
実際やって比べるまでこれほどとは思いませんでした。

水洗いしてザルに上げました。
左がうどん   右が中華麺です。

sb 017



まず、そのまま匂いを嗅ぎます。
左が穀物香がほどよく立ちます。
そして、右がかん水の匂い。

  sb 018 sb 019


どちらかと言えば左に比べると右のかん水の方がやや不快です。
ただし、これはそのまま嗅いだ時の話で
今度は何も付けずに食べますと
どちらも風味を感じることが出来ます。
どちらも不快感はありません。

それどころかかん水の入った右の方が小麦粉の風味として感じるから不思議です。
次にツユを付けて食べます。

左の方はツユに隠れてしまいほとんど風味を感じません。
やはり蕎麦に比べると数段香りが弱いです。
対して右は風味感を強く感じます。
仕掛けをした本人ですらつい
「これって小麦粉の香りなのか?」と思ってしまいそうです。

巷には麺を一口すすり
「う~ん!小麦粉本来の香り!」という評論家のような
語りが蔓延し、その全てがそうだとは言いませんが
相当、勘違いが多そうですね。

小麦粉本来というより中華麺らしいという表現がベターかと思われます。

では、かん水を入れないと中華麺にはならないのでしょうか?
いえ、他に卵を入れる方法もあります。
全卵、または卵白を加える方法です。
以前にも書きましたが
私は当初こちらの方を指向していました。

しかし、実際はこちらの方がアレルギーなどで実害が多い事に気づき止めました。
卵の殻を焼いて作る焼成カルシュゥムを加えるという手もありますが
やはりアレルギー反応が出るそうです。

ここで話を整理しましょう。
日本古来の「うどん粉」ではうどんが最適な麺なのです。
なぜなら地粉(内麦)はグルテンが弱いから多加水で「強靭なコシ」を作ってやり
なお食べ応えを求めるなら太くする必要があったわけです。

対して輸入粉(外麦)にはグルテン含有率が高いので
低加水でもコシと錯覚させるに充分な弾力が得られるのです。
外麦強力粉+かん水で
食べ応えのある強いコシがある(ような)麺の出来上がりだったわけです。

こうして因子を分解してしまえば後の方程式は簡単です。

内麦強力粉を主体に低加水で製麺するには
+グルテンの添加強化+やや多めのかん水
  
となります。

これに比べて
外麦強力粉を主に多加水で製麺すると+少ないかん水
で充分なコシが得られるというわけです。

私が採用したのは後者です。
ですからかん水が起こす独特の風味感のようなものは弱いです。
そんなかん水臭さは無くてもいい匂いですから少しも構いません。

ですが特級粉で作るとその代わりに素晴らしいものが生まれます。
「かすかな甘味」です。

良い粉はつるみ感だけではなく甘味を伴います。
ただし非常に微妙です。

しかし、ラーメンにおいてはそれでも威力を発揮します。

当店では昆布を多用していますからスープには
旨味の他に「渋み」「苦味」「えぐみ」「酸味」が混在しています。

これは嫌味要素となります。
例えばマグロでも
「旨味」「脂」の他に「渋み」「酸味」といった嫌味要素があるからこそ
かえって味に深みが出ているのです。
旨味や甘味だけでは単純な味となりすぐに飽きます。

当店では
「在るがままに」「原点回帰」として砂糖などで誤魔化す事をしてきませんでした。
それが一部のお客様の間では不評でした。
無理もありません。

化学調味料と砂糖をたっぷり加えた
「旨みたっぷりのコク」と「舌がよろこぶ甘い」スープに慣れた舌には嫌味要素など
ありえない味覚だったからです。

ところがうっすらと甘い小麦粉がこれら嫌味要素を押し込めてくれたのです。
無くなったわけじゃありません。
今も混在して深みを与えてくれています。
あたかもマグロがヅケで更に美味しくなるように
特級粉がスープを美味しくしてくれたと言う訳です。

もちろんそれはかん水がごく少ないからこその恩恵です。
なぜならかん水が過多だとスープに重大な悪影響を及ぼすからです。
詳しくは書きませんが、
あまりにも麺の食感をかん水に頼りすぎるのは麺の味にもスープの味にも弊害が多すぎます。

麺を持ち上げた瞬間にムワッと立ち上る匂いが
アンモニア臭のようになっているのは明らかに入れすぎでしょう。
体に良くない恐れが・・などというレベル以前にまず、美味しくありません。

ところが
そればかり食べていると感じなくなってしまうんです。
ひとつの考えにとらわれ過ぎて
『美味しいと思わなければいけないんだ』と入り込む場合もあります。
まさに囚人の行動原理と言えます。
顔の両側に掌を立て添えたようなものですね。
それを本当に美味しく感じるようになります。

味覚臭覚を正しく保つのは案外簡単なようで実は難しいのかも知れません。
肝要なのは正しくニュートラルを自覚することだと思います。
何事にもまず、立ち位置を決める事が大事です。
0を確立しなければ+1もー1もありません。

さて、かん水の話はこのぐらいにして
次は時間をあけて「麦粉臭い」実態を記してみましょう。

かん水の話を書くのに引き合いに出したのは「うどん」でした。
麦粉臭い話を書くのに引き合いに出すのは「蕎麦」です。
う~ん気が重くなるほどの危険水域の香りがプンプンしますね。

少しだけ時間をあけて続きます。
まさに、美味しいものに美味しくない匂いがあってはならないからです。
及ばずながら広めていきます。




 







スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://oisiitoyama.blog96.fc2.com/tb.php/652-236ec6b8