麺が美味しくなったとお褒めの言葉を頂戴することが多くなってきました。

「暴れ馬のようだ」
と評した方がいらっしゃいます。


私は十数年以上前から趣味として手打ちうどんを作っています。
中国料理店の頃には「小田巻き蒸し」というランチメニューで出していました。
茶碗蒸しの中にうどんを敷くものです。
現在のミニ丼に使用している丼で大きな茶碗蒸しを出す時の1パターンとしてです。
もちろんもう一品つきました。
ボリュームがあるので大人気だったんですよ。

さて、うどんは中力粉という比較的グルテンの少ない粉で打ちますから
足で踏む程度でこねる事ができます。
これを中華麺用粉の強力粉で出来ないものか というのが私のかつてのナゾでした。

実際は硬くなりすぎて、とても手ではこねる事ができないのです。
柔らかく練っても美味しくなりません。
なんとか、こねても今度は薄く伸ばす事など不可能でした。

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青竹打ちがそれを解決してくれました。
長いパイプを使い、テコの原理で体重をかけることでそれが可能になったのです。
実践してみると思っていた以上の多加水麺の威力が判りました。

基本は讃岐うどんと同じです。
頑固な手打ちうどんを作る方法で中華麺を作るわけです。
(一日目)
   水回し__加水して混ぜる
   脱気 __粒子の中の余分な空気を抜く工程_一次熟成
   練り __青竹打ちで何度ものしと畳みを繰り返す
   寝かし__一定温度で半日寝かす     _二次熟成
   半のし__機械にかける厚みにまでのし直して
        一晩寝かす          _三次熟成
(二日目)
   伸ばし__機械で一定の厚みに伸ばす
   裁断 __麺線にカットする、手もみ 
   計量 __一定重量に量る
   寝かし__翌朝まで冷蔵庫でしまう    _四次熟成
(三日目)
   お店で提供

こうして作り始めてから3日めでようやくお店に出せる麺になるのです。

麺の生地は手打ちによる のしと畳み効果で適度な空気層が入ります。
これが手打ちならではのツルツルとした食感を産みます。
(但し、水回し直後の多量の空気は邪魔なので抜く工程が必用=脱気)

こうして出来る多層網の目構造の麺体とはどのようなものかと例えるなら
パンで言うならクロワッサン
菓子ならパイですね。
小麦粉は先に述べたように水などの配合を変えるだけでいかようにも姿を変えてくれます。

また鶏肉ならモモ肉。
豚肉なら肩ロースのようにその組織が小さく区切られた小部屋状になっているのも大きな特徴です。

まさに高層建築の1DKマンションのような構造になっているのです。

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これを伸ばす ということは
これだけの網目構造が一本の麺に入っていくのです。
どれだけ薄くとも、厚くともその構造は同じです。
これが多加水麺の内部構造です。

この多層構造にはいくつかの長所があります。
1、伸びにくい
2、太くても茹で上がりが早い
3、コシが強い
4、消化分解が緩やかなので
       「食後の急激な血糖値上昇を比較的緩やかに抑えられる」
       「腹持ちが良い」
という所です。

理由を考える為に低加水麺と比べてみましょう。
低加水麺は水回し後、ローラーで生地を圧着させます。
水分の少ない粉体は手ではまとめられないからです。
ですから「こねる」事が出来ません。

そのため仕上がる麺体は多層には出来ても網の目構造を作ることは難しいのです。
4層なら4階建ての各階1フロアの建物 に例えましょう。

熱や水を加えると  を
-ドアを開けて声をかけると-  に置き換えてみると判りやすいですね。

小部屋の集合体は時間がかかりますが1フロアならすぐ向こうにまで声が届きます。

多加水は水分を多く含んでいますから茹で時間が早く、伸びにくい理由がココなのです。
低加水は水分が少ないですから盛んに水分を吸収し、早く伸びるわけです。

この伸びた状態を
「水分勾配の減少」した状態と言います。

麺の外側と中心部の水分の差異を形容して水分勾配と呼びます。
これが急勾配なほど硬い状態
勾配の無い状態が伸びた麺  というわけですね。

多加水麺ではコシがしっかり形成されていますから柔らかく茹で上げてもコシは残ります。
つまり水分勾配だけに頼らない と言えます。
低加水麺では正確な意味でのコシはありませんから水分勾配が重要視されます。
だから硬さを売りにするケースが多いのです。
柔らかく茹で上げるとコシの無いのが解るからです。

だから低加水の代表のパスタがラーメンになり得なかったのです。
スープパスタは量を多く出来ません。
-ちゃんぽんに利用しているケースをかつて見たことがありますが、
熱くてゆっくり食べると終いにはふやけてしまいました。

同じ理由から分解消化の時間もどちらが早くてどちらが遅いか
また腹持ちの違いもお解かりいただけるかと思います。

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料理人は作って終りではありません。
食感や腹持ちの事まで考えて作ります。

前回の「天麩羅」を例に挙げるまでも無く。
食べる時のカリッとした食感を時間の経過とともに「読む」事の出来る料理人が
油の調合から衣の配合に気を配るように

私も麺を作って
「はい、今日の仕事はこれで終り」とはなりません。
茹でて、出して、
お客様が口に運ぶ時の食感、噛んだ時の食感、口から鼻へ抜ける時の風味
飲み下す感触、食べ終わるまでの時間、
そして追加麺の茹で上がりの時間の「間」
腹持ち  まで全てにおいて責任があるのです。
こうしてやっと仕事を支配できます。

これを読まないと仕事になりゃしません。

奔馬のような麺とはありがたいお言葉です。

おもちゃ作りの職人はゼンマイやバネで動く仕掛けを仕込むときに良い材料を吟味するように
私も最善の粉を選択します。

おもちゃの動く姿を予想してネジを巻くように
私も口中で麺にたわめられた力がはじけるその瞬間を読み
麺を鍛え打ちます。

そして期待通りにお客様がその食感に驚きの声を上げてくれる瞬間と
再来店してくださりお顔を拝見するまでが
ひとつながりの仕事なのです。

うれしい事に初めて来店された方の「麺追加」のケースが多くなり、
再来店される割合も少しづつ増えてきたようです。

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