五月のうららかな日差しを浴びて瓦屋根が光り輝く中、
鯉のぼりが悠然と泳ぐ姿を
「いらかの波 そよぐ風・・・」と唄う唱歌があります。

今日、雛の節句の富山では穏やかな冬晴れの朝を迎えました。
うっすらと瓦に積った雪が昨日までの低気圧が去った事を
告げて朝日を照り返しています。
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思えば今年はキツネにつままれたような冬でした。
12月の早い時期からいきなり積もり続けた雪に驚かされた
にも関わらずあんがい小雪だったのです。

でも冬のお荷物は雪だけじゃありません
今朝のおだやかな雪景色の中、白く光る
いらかの波模様がそれを予感させます。

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昨日までの冷え込みが過ぎ去り、
前線が北上した後の平穏なこの時期にはこんな白い波頭が
砕けるのです。

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「寄り回り波」です。

北西の風が吹き荒れると日本海側では風波(かぜなみ)が
激しく打ち付けます。
その前線が北海道に移動した頃には
海はまさに嵐の去った後のように静かになっているのです。

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しかし、北海道から日本海側と大陸の間を小さなうねりが
振幅を増すように肥大しつつゆっくりと押し寄せてきて
富山湾に入りさらに大きな振幅のうねりへと成長したころに
それは起こります。

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いえ、どこでも起こるわけじゃありません。
滑川漁港から富山市にかけての海底が急深になっているエリアで
特に頻繁に起こります。

このように波の無い静かな海に
突然、一筋のうねりが持ち上がったかと思うまに
まるで生き物のように”立ち上がり”激しく激突するのです。

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これは見た目以上の脅威と破壊力があります。

まず、一見おだやかな海なので釣り人がやられます。
過去にも堤防でさらわれたとか波消しブロック上で
取り残されたなどの事故が起きています。

まさに
巷間釣り師の間でささやかれるタブー
”波に背を向けるな”
の教えそのものです。

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最悪だったのが魚ノ射と言う所で起きた警察官殉職事故です。

波がまったくないベタ凪の日にテトラに上がっていた
釣り師が強烈な寄り回り波に襲われ身動き出来なくなり、
そして
救助活動中の警察官が殉職されてしまったのです。

ここには慰霊碑が建立され今も恐怖と勇気を伝えています。

破壊力はもっと顕著に出ます。
高塚地区ではしばしば高潮被害が起きます。
民家に海水が流れ込むのです。

また滑川漁港では灯台が倒されました。
白岩川河口の堤防も破壊された事があります。

先の高塚地区でも被害を防ごうと波消しブロックを
投入するのですがあまりに破壊力が強すぎてすぐに
テトラが崩れてしまうのです。

今ではここは釣り師の間では「半テトラ」という
ポイント名がつけられています。
常にその状態だからです。

波に襲われたテトラは手前にも崩れていますがほとんどは
沖側に沈んでいきます。

頑丈な堤防が崩れるのも同じ理由からです。

それは何故でしょうか?
これは東日本震災のときに堤防が崩れたのと同じ
理由からだと思われます。
「洗掘(せんくつ)」
というそうです。

河や海岸で水の浸食により起こる落ち掘り現象なのだそうです。

河では小石は流れにより上から下に流れ落ちますが、
巨岩は濁流で上に登ることがあるそうです。
激流は岩の直前の土砂を削る為、上流に転がるというのです。

これが洗掘です。

東日本震災の津波は堤防を乗り越えて内側の砂を掘ったため
堤防は岸側へと崩れたそうです。

立山黒部の渓谷は急峻な高低差を下る水が大地を削って
造られました。

富山湾は海底のその急激な落ち込みを表して「あいがめ」と
呼ばれます。
深い海底の水が藍染めの瓶の中のように黒く見えるからです。

海もまた気の遠くなるような長い時間をかけて
水に削られ続けて地形を変えてきたのでしょう。

大きなうねりというのは巨大な質量を伴った水の塊です。
それが傾斜の緩やかな海底ならそのまま砂浜を駆け上がる
だけですみますが、
急勾配の駆けあがり地形ではそこで激突して立ち上がります。
これはまさしく小さな津波なのです。

こんなのが毎年、秋から冬にやってきては海底をえぐり
防波堤を壊し、家まで洗う
これは周辺の住民の方々にとり想像を絶する苦難です。

千年に一度の大津波はもちろん怖いですが
千年の間毎年訪れる小さな津波もおそろしいです。

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しかし、禍福はあざなえる縄の如しといいます。

その地形のおかげで豊漁をもたらせます。

磯釣り師が狙うのもいわゆる「かけ上がり」がポイント。
魚が集まる地形でもあります。

今の時期ホタルイカ漁が盛んですが
富山湾のホタルイカが全て同じ味わいではありません。
この寄り回り波の被害の大きい地区とホタルイカの
美味なポイントとは重なるのです。

深海から遊泳してくる小さなイカの体力の消耗と
鮮度がその味に影響しているのだと考えれば
おのずとその原因を地形に求めざるをえません。

漁業と地形の相関の例を挙げればきりがありません。
カニやバイ貝などもあります。

でも地元であってもほんの少し海岸線から離れただけで
気づかないこのような好天にこうしてまるで津波の
ような波が襲っているのです。

この日
近くの方が様子を見にきていたので尋ねると
波が砕ける衝撃で家が震動するんだと仰っておられました。

海岸線を走る国道ではかつて堤防が未整備の頃
人の頭ほどの石がごろごろ転がっていたそうです。
ドライバーははじめそれが何を意味するのか判らなかった
といいます。


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道路を洗う波がそれを頭上から降らせていると
察した時の恐怖はいかほどだったでしょうか?


自然がもたらす恩恵と被害。
これはそこに住み続ける限り縁が切れません。
そうして人は闘い、耐えてきたのです。


この日
北海道では暴風雪で8人もの尊い人命が損なわれました。

寄せる波のように全国で繰り返される自然災害を見聞き
するにつけ
なぜこんなにも日本人が勤勉な人種になったのか
その遠因の一部を窺うような気がします。

せめて
今を生きている、生かされている私達は先人たちの
知恵や苦労を忘れないでいきたいものです。

3.11より二年が過ぎました。
合掌














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